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札幌地方裁判所 昭和48年(わ)353号 判決

主文

被告人を懲役二年に処する。

未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。

押収してあるビニール袋入り覚せい剤粉末一包(昭和四八年押第九七号の一)、同刀三振(同押号の二〇、二一)をいずれも没収する。

訴訟費用は被告人に負担させない。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  法定の除外事由がないのに、

(1)  昭和四八年一月二五日頃、札幌市中央区南一〇条西三丁目札幌パークホテル八三五号室において、松崎喜代美から塩酸フエニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤粉末約四二グラムを代金五〇万円で譲り受け、

(2)  同月三一日頃の午前零時三〇分頃、同市豊平区美園二条一丁目一番地みさかマンション内の被告人の居室において、中沢信義に対し、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有すを覚せい剤粉末約0.6グラムを譲り渡し、

(3)  同日時場所において、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末約0.05グラムを水に溶かした注射液を橋爪猛司の左腕部に注射し、もつて覚せい剤を使用し、

(4)  同日時場所において、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末約0.03グラムを水に溶かした注射液を自己の腕部に注射し、もつて覚せい剤を使用し、

(5)  同日午前一〇時頃、同所において、佐久清一に対し、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末約0.06グラムを譲り渡し、

(6)  同日時場所において、井上道雄に対し、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末約0.03グラムを譲り渡し、

(7)  同日時場所において、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末約0.03グラムを水に溶かした注射液を自己の腕部に注射し、もつて覚せい剤を使用し、

(8)  同年二月一日頃の午後一〇時頃、同所において、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末約0.05グラムを水に溶かした注射液を橋爪猛司の左腕部に注射しもつて覚せい剤を使用し、

(9)  同日時場所において、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末約0.03グラムを水に溶かした注射液を自己の腕部に注射し、もつて覚せい剤を使用し、

(10)  同月二日午前八時頃、同所において、中沢信義に対し、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末約0.03グラムを譲り渡し、

(11)  同日時場所において、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末約0.03グラムを水に溶かした注射液を自己の腕部に注射し、もつて覚せい剤を使用し、

(12)  同日午後一時頃、同所において塩酸フエニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤粉末約0.82グラム(昭和四八年押第九七号の一)を所持し、

第二  法定の除外事由がないのに、

(1)  昭和四七年二月下旬頃から昭和四八年一月中旬頃までの間前記被告人の居室および同市中央区南六条西一二丁目田中マンション三号室等において、刃渡り約21.3センチメートルの刀一振(前同押号の二一)を所持し、

(2)  同年二月二日午後一時頃、前記被告人の居室において、刃渡り約21.9センチメートルと約21.5センチメートルの刀二振(前同押号の二〇)を所持したものである。

(証拠の標目)〈略〉

(累犯前科)

被告人は、(1)昭和四三年六月二七日、札幌地方裁判所において、傷害罪により懲役四月に処せられ、同年一〇月二七日右刑の執行を受け終わり、(2)その後犯した恐喝未遂罪等により昭和四四年一〇月九日札幌地方裁判所において、懲役一年四月に処せられ、昭和四六年一月九日右刑の執行を受け終わつたものであつて、右事実は、検察事務官作成の被告人の前科調書および被告人の当公判廷における供述によつて認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一(1)、(2)、(5)、(6)および(10)の各所為はいずれも覚せい剤取締法四一条一項四号、一七条三項に、判示第一(3)、(4)、(7)、(8)、(9)、および(11)の各所為はいずれも同法四一条一項五号、一九条に、判示第一(12)の所為は同法四一条一項二号、一四条一項に、判示第二(1)、(2)の所為は包括して銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三第一号、三条一項にそれぞれ該当するが、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、前記の前科があるので刑法五九条、五六条一項、五七条によりいずれも三犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第一(1)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入し、押収してあるビニール袋入り覚せい剤粉末一包(前同押号の一)は、判示第一(12)の罪に係る物で犯人が所有するものであるから、覚せい剤取締法四一条の五本文によりこれを没収し、押収してある刀二振(刃渡り21.9センチメートル同21.5センチメートルのもの)(前同押号の二〇)、同刀一振(刃渡り21.3センチメートルのもの)(前同押号の二一)は、判示第二(1)、(2)の犯罪行為を組成した物で犯人以外の者に属しないから、いずれも刑法一九条一項一号二項によりこれを没収することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。

(判示第二(1)、(2)事実の罪数について)

判示第二(1)、(2)の各刀剣の所持については、訴因の制約のもとで判示のように認定したものであるけれども、その罪数について判断するに、本件各証拠によれば、本件刀三振は、被告人が昭和四七年二月下旬頃、他の一振とともに同時に製造し、それ以後前記みさかマンションの被告人の居室に一緒に所持していたものであるところ判示第二(2)の事実にかかる刀二振については判示第二(2)の犯行日時頃まで同所において引き続きこれを所持し、また判示第二(1)の事実にかかる刀一振については、昭和四七年六月初め頃右みさかマンションから前記田中マンション三号室に移し変え、昭和四八年一月中旬頃までの間同所や自動車内においてこれを所持していた事実関係が認められるので、本件刀三振の不法所持は包括して一罪を構成するものと解するのが相当である。

よつて主文のとおり判決する。

(中西武夫)

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